患者さんは正確さより、納得しやすい説明を求めている!

友達が最近、かかりつけの医院を変えて、
「今度の先生は良く説明してくれていい先生だ」
と、とても喜んでいた。
話を聞くと、花粉症でオノンを服用していたが鼻血がでたそうだ。すると先生が
「オノンは抗ロイコトルエンの作用がある。ロイコトルエンは血小板凝集の作用があるから、
それを妨げると血が固まりにくくなって鼻血がでやすくなる」
と説明してくれたと。
「飲んでいる薬の作用がよくわかるから、とても勉強になるし信頼できる」
と言っていた。



花粉症は即時型アレルギーに分類される。


〈即時型アレルギーのおこるしくみ〉

① 抗原(花粉など)がB細胞を刺激し、Th細胞の助けを得て特異的IgE抗体を産生する。
② このIgE抗体が肥満細胞表面のFcレセプターと結合する。
     (Fcレセプターは好塩基球、単球、マクロファージなどにも存在する) 
③ さらに抗原が入ってくると、抗原が肥満細胞表面のIgE抗体に架橋する。
④ それがスイッチとなり、Ca2+イオンの流入が起こり、
⑤ 肥満細胞からの脱顆粒と化学伝達物質の放出を引き起こす。




肥満細胞の中には顆粒としてもともと蓄えられている化学伝達物質と、
新たに作り出される化学伝達物質がある(抗原の刺激によって細胞膜の変化が起こり、
ホスホリパーゼA2からアラキドン酸が遊離されることから始まる化学反応による)。



顆粒中に前もって作られてるもの:ヒスタミン、ヘパリン、酵素類(トリプターゼ、βグルコサミニダーゼなど)、
                化学走化性および活性化物質(ECF-A,NCF,PAFなど)


新たに作り出される物質:CysLTs(LTC4、LTD4、LTE4)、化学走化性LTB4、PG、TXA2


そしてこれらの化学物質の働きだが、

ヒスタミン:血管拡張作用、血管透過性亢進作用、化学動力学性、気管支平滑筋収縮作用
ヘパリン:抗凝固剤
ECF-A:好酸球遊走因子
PAF: 血小板活性化因子
NCF:好中球遊走因子
CysLTs(LTC4、LTD4、LTE4):気管支平滑筋収縮作用、気管支腺分泌促進作用、血管透過性亢進作用、
                 気管支炎症惹起作用
LTB4:白血球遊走活性化
PG(プロスタグランジン)、TXA2(トロンボキサン):気管支平滑筋収縮、血小板凝集、血管拡張作用




このしくみをふまえて、抗アレルギー剤には、
メディエーター阻害薬、抗ヒスタミン薬、TXA2阻害薬、LT受容体拮抗薬、Th2サイトカイン阻害薬がある。


そこでオノンだが、これはLT(ロイコトルエン)受容体拮抗薬。
細かいことを言うと、ロイコトルエンに血小板凝集作用があるかはまだわかっていない。
化学伝達物質のうち、血小板凝集または活性化作用のあるのは、PG、TXA2、PAF などである。


しかしまた、オノンの使用上の注意を読むと 「重要な副作用」の項目に


3)血小板減少
血小板減少(頻度不明※、初期症状:紫斑、鼻出血、歯肉出血等の出血傾向)があらわれることがあるので、
このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。


という記載がある。解説を読むと


カプセル剤及びドライシロップ剤の市販後において重篤な血小板減少が報告されている。
多くが投与開始半年以内に発現しており、検査により判明した症例が多いが、初発症状として、
出血斑等の出血傾向が認められた症例もある。転帰については、本剤の投与中止により、
多くの症例で回復・軽快している。

なお、本剤の反復投与毒性試験において血小板減少は認められておらず、発症機序は不明である。



とあり、たしかにオノンによる血小板減少の報告はあるが、ロイコトルエンの作用とは証明されていない。
(症例報告では、血小板増加の報告もある。)




で、結局オレが何を言いたいかとゆーと、



「だけど、先生は正確な説明はしていなくても、注意事項がきちんと伝わり、
患者さんの信頼を得ているならいいのかな」
ということだ。


この場合,重要なのは、
「鼻血がでたら薬のせいかもしれないので、注意する」
ということを印象づけることであり、
また、患者さんがこの先生なら信頼できる、
と思っていろいろ報告してくれる事じゃないだろうか。


患者さんだって本当は、知りたいとはいえ、リアルな説明なんか求めていないと思う。
上のざっくり説明だって、たぶん話しだしたら「もういいよ」と言われそうだ(^^)。
リアルに説明すると、はっきりわかっていない事のほうが多い。
「説明して」というほとんどの患者さんは、
こうだから、こう!というような、短くてわかりやすい説明を求めているんだと思う。






‥とは言ってみたものの、患者さんが
「良く説明してくれて〜」
なんて言うたびに、その説明の内容を聞き出して、
「でも、その説明はちょっと違う‥」
などと、心の中でもやもやしてしまうのだった。(^^)